観劇鑑賞メモ

諸々の自分用メモです。4季のオタクです。

2023年12月29日ひばり(自由劇場)

1階ちょい後方
初見
ネタバレを含みます


眠気に勝つためにコーヒー飲んで行ったら、なんとかいけた。
眠気の気配は感じたけど、意識が薄くなることはなかった。
大勝利だ!

・全然面白い。今まで誤解しててごめんなさい。

入れ子構造っぽい。
裁判の前になぜかジャンヌがこれまでのいきさつを「演じる」ように司教から命じられる。
イギリス人もフランス人も、ジャンヌの家族から王太子まで、様々な人がジャンヌが「演じる」ところを囲んで見ていて、時々参加する。
場面によってはみんなが去って、王室だけになったり、牢屋だけになったりする。
この場面転換は戯曲で指定されていることなんだろうか…?

・時と場所があいまい。裁判の輪郭が、スリル・ミーの裁判っぽい。

・歴史劇や評伝劇だと思ってたら違った。政治劇の要素はある。
後味が井上ひさしとかブレヒトみたいな。
カテコで呆然としてた。

・1幕のおわり、兵士が二人舞台に出てきて「休憩」と書かれた札のついた槍を立てて休憩に入る。まじか。

・演出というより脚本がシアトリカル……。

・アルプのジャンヌ年表だけの知識で挑んだけど、問題なかった。逆に、戯曲の予習をしていたらこの裏切りは味わえなかったと思う。予習していかなくてよかった。

・繰り返される言葉や、印象的に響くように発せられる台詞があり、脚本にメリハリがある。頭の中でマーカーを引きながら聞く。

・言葉の海である。

・1幕終わりのシーンを2幕始めに繰り返すけど、1幕にはいなかったその他の面々が2幕では再登場している。
つまり裁判でまた「演じて」いるのである。

・ジャンヌだけが、劇の言葉が示すのとは異なり、ずっと同じ白い服を着ている。

・なんといってもラストやで。
ジャンヌのまっすぐさに感じ入って、政治と宗教の抱える矛盾に打ちひしがれていたところに、「ジャンヌの幕切れはこれではない」だよ。三文オペラ???

・上演台本、改訂してたりします?「かわいいマスコット」とか「ジェントルマン」とか「ハッピーエンド」とかのカタカナ語が多くて、フランス語から訳した1950年代の新劇としては言葉が随分分かりやすいと感じた。原文気になる。

・前方からの照明によって、上段の人物たちのシルエットが背景幕に大きく映し出される場面があり、恐ろしく見えた。
それも左右それぞれから影を作るので、実際の立ち位置とは違う見え方になる。

・登場人物がみな魅力的。
裁判官は「人間という、善と悪を持ち合わせる存在こそが、我々が裁くべき敵である」というようなことを言うけど、登場人物それぞれがその通り善と悪を背負っている。
善と悪といっても、両面、と言えるほど二元論的に説明がつくものでもない。ひとりの中に正論と詭弁がある。
その混合体から生まれた言葉たちが、共通するはずの「神」を巡って、またひとりの少女を巡って、絡み合う。そして、人間社会という多面体を、あらゆる面から視て、解明しようとする。球体のジャングルジムみたいな感じ(?)

・司教も裁判官も「お?」という変化があってなかなか面白い。

・『骨と十字架』に求めていたものがここにあった感。
私が勝手に求めていただけで、ほねじゅうが悪い訳ではない。

・ジャンヌは戦争が好きだったけど死んでいく人に対しては敵味方関係なく涙を流した、という矛盾についても考えてしまう。

・牢屋では男の服を着ないと身を守れない、というくだり、そのくだりへの導入含めて絶望的で、ただ戯曲の言葉がそれを絶望的なこととして扱っていて、茶化したり悲劇の材料にしたりしないのがちょっとした救いだった。
っていうか男女で牢屋分けようよ……ジャンヌの時代の人権意識……。

●キャストについて
・五所さんのジャンヌが素晴らしかった。
台本通り演じるだけなら多分無垢な少女にもなれるのに、ただ無垢というだけではなく、無邪気だった。
神の声を聞いてはいるけど、自分の中にも迷いがある。
白を黒と言えない。生きることに慣れることを受け入れられない。
牢屋における「ジャンヌをお返しします、最もジャンヌらしいジャンヌを」までのくだりがすごかったな。大体ゲッセマネだった。
ジャンヌが言う神や主イエスの「救い」の方が、司教達が言うのよりも、私が受けたカトリック教育に近かったな。徴税人も食卓に招かれる。善人なおもて往生をとぐ、いわんや悪人をや。(それはキリスト教ではない)
教会こそ傲慢なのではないか、という。
あと「それ!」「シャルル♪」の可愛さよ!五所さん可愛い!知ってた!
前回公演を観てないので、時折「この台詞野村さんだったらどうやったのかなあ」と気になって勝手に想像したりしてしまった。

・信頼と実績の道口さんが演じるコーションは、長台詞でも緩急が分かりやすくて、言葉が気持ちよく入ってくる。
ジャンヌを説得しながら、ふう…とため息をつくところが2か所くらいあって(それは呆れだったり、肩の荷が降りた安心だったり、別のため息である)、とても目を引いた。
すごく良かった、すごく良かったけど、「年寄り」という台詞が出てきたので、10年後、20年後の道口さんコーションも観たいな~!と思った。
時々、ちらちらと脳内をフロローがよぎったけど、それは同じ人だと思うからで、演技としては全然違った。全然違うからな。
道口コーションvs野村ジャンヌも観たかった。

・大審問官、役どころのラスボス感……。
特に終盤、ジャンヌが火刑にされる場面直前に見せる情が湧いたかのような発言が不思議。でもそれを自分で否定し、「最後までこの女に勝てなかった」みたいなことを言う辺りが、おっフロローの仲間っぽいなと思ったけど、フロローよかずっと真面目でちゃんとしてるよ。
言うまでもなく、味方さんのお芝居には絶対の安心感があるが、戯曲上かなり重要なこの役を味方さんが演じることに、一切の不安も抱かせない。
どんな時もきっと変わらない、極上の「大審問官」を見せてくれるんだろうな。
蜷川演出では壌晴彦さんが演じたそうです。めっちゃこわそう~~良さそう~~~!

・飯村さんの検事、戯曲のせいか演出のせいか分からないけど、イロモノ枠(失礼)でめっちゃ安心した。
飯村さんてこういう役をやるとめちゃくちゃ面白いの、なぜなんでしょうね。

・ラヴニュ、立ち位置がとても分かりやすい。
舞台のはじめ、この人が教会の面々が座る椅子の位置を整えている。
鈴本さんの台詞は柔らかく涼やかで、バチバチのメンツ(良い意味で)が揃う中、安心したなあ。

・ウォーリック伯は時折コーションとサシで内緒話をするのが面白い。
とても阿久津さんだった。衣裳がひらひらで可愛い。

・シャルル七世、ひねくれ王子~~~!
ジャンヌの再現劇を見てる間、ずっとけん玉いじってる。
現在の田邊さんが演じる王子ってどんなだろうと思っていたが、説得力しかなかったな。
印象的な台詞がたくさんあった。失敗させてもらえない環境で育った王子の、ジャンヌを突き放したあの感じ……。
シャルル〜〜〜!

・王妃は小林さん。
王子の興味はどちらかというとアニエスに向いてるし、時々複雑そうな表情を見せる。
自尊心が高そうだけどうまくやってる感じ。
ヨランド王太后の中野さんはほんとに安心するね。
宮田さんのアニエス、美しかったな~。
ファッションでイギリスに勝たんとするフランス王室女性陣、滑稽にも見えるけど、精神的に独立している。

・ランス大司教の星野さん、声が非常によく届いて、他の人との違いに驚いた。
これが喉を鍛えた俳優の真骨頂……!

・大男ラ・イール、金久さんにぴったりだな〜。
ジャンヌを助けに来れるほど常識破りではなかったのは悲しくもあるが、あの果敢さはジャンヌがそばにいたからでもあったのかな。
五所ジャンヌとの身長差が尊い

・てっしーのボードリクール良かった~。
男臭さと滑稽さの塩梅がちょうどよくて…。
まさかあのような役回りになるとは思ってなかった。

・ブドゥースが正木さんだったの終わってから知った。
歌わない正木さん…だと…?

・優しい印象が強かった林さんのバイオレンス父、怖かったでござるな。

・シャルルの小姓、合歓ちゃんだったからなんか身体能力的な見せ場があるのかな、と勝手に期待してたらそういうことではなかった。
小さくて凛とした佇まい……でもべっちの替え玉には無理がある……。

・貴族の方々の中にめっちゃ見覚えある顔が……と思ったらやまはるちゃんだった。キャストシート見てスッキリした。

●その他
・一回、マイクか何かが擦れて凄い音がした。
人によって声量に差があったからマイクないのかと思ってたけど、あったのかな?床?

・カテコ何回かあった。

・以下、内容と関係の無いことだけど。
ちょうど前の席に、体格が大きい人(縦にも横にも)がいらして、舞台センターが基本見えなかった。
もう吹き出しそうになるくらい、すっぽり見えない(笑)
特にジャンヌの五所さんは小柄なので、彼女が座っても立っても見えなかった。
後ろの上段にいる登場人物も、前の人の頭の位置によって見え隠れした。
その人に罪は全くないし、対処しようがないので、1幕は台詞の聞き取りに徹したり、センター以外にいる登場人物の動きや表情を見たりしてた。それはそれで有意義だった。
休憩を挟み、2幕が始まる少し前に席に戻った私は、前の人の頭頂部を見上げていた。
すると、後ろから静かにスタッフさんが駆けてきて、私(通路側の席でした)の横に屈んだ。
そして小さな声で、「前のかたで見えづらくありませんか?」と声をかけてくださった。
こちらから何か申し出た訳でもなかったので大変驚いたが、正直に「実はちょっと舞台の真ん中が……」と小声で答えると、スタッフさんはその手に持っていたシートクッションを取り出し、「良かったらお使いください」と差し出された。
感動のあまり泣きそうになってしまった。
じっとしてたつもりだったけど、気付かない内に身じろいだりしてたのだろうか、だとしたら申し訳ないな、後ろの人は見えづらくならないだろうか、などと思いつつ、時間も無かったのと前の人に気兼ねしたのとで簡単に「助かります」「ありがとうございます」と小声とジェスチャーを交えて御礼を申し上げた。
ということで、2幕はそのクッションに座って鑑賞することができた。
それでも前の人の座高を超えることはなかったが、私のお隣(男性の方)とだいたい同じ座高になったと思う。
センターの前方(例えば立ってるジャンヌや座ってるラ・イール)は相変わらず見えないけど、上段の司教達は見えるようになった。
スタッフの方、本当にありがとうございました。


クリエイティブ

作 ジャン・アヌイ
訳 鬼頭哲
企画・製作 四季株式会社
初演オリジナル演出 浅利慶太
2023年再演版演出 荒木美保
装置 金森 馨
照明 吉井澄雄
衣裳 レッラ・ディアッツ
音楽 間宮芳生
美術監修 土屋茂昭
ステージング担当 礒津ひろみ
稽古進行管理 味方隆司、田邊真也


キャスト

ジャンヌ 五所 真理子
コーション 道口 瑞之
宗教裁判所大審問官 味方 隆司
主任検事 飯村 和也
ラヴニュ 鈴本 務
ウォーリック伯 阿久津 陽一郎
シャルル七世 田邊 真也
王妃 小林 由希子
アニエス 宮田 愛
ヨランド王太后 中野 今日子
ランス大司教 星野 元信
ラ・トレムイ 福島 武臣
ラ・イール 金久 烈
ボードリクール 勅使瓦 武志
ブドゥース 正木 棟馬
ジャンヌの父親 林 和男
ジャンヌの母親 大橋 伸予
ジャンヌの兄 戸高 圭介
死刑執行人 木内 和真
シャルルの小姓 近藤 合歓

【男性アンサンブル】
鈴木 貴雅
橋岡 未浪
香取 直矢

【女性アンサンブル】
佐和 由梨
秋山 知子
中川 奈々美
徳山 稚子
山崎 遥香
柳 葉奈