観劇鑑賞メモ

諸々の自分用メモです。4季のオタクです。

2023年1月30日洪水の前(収録配信:恵比寿・エコー劇場)

ずっと前から知っていた作品で、最近ではめったに上演にかかることがないので絶対に観たかった。
何と言っても、作曲がいずみたく・・・!
ただ12月の上演時には発熱で行けなかったので、配信を2日に分けて鑑賞した。配信ありがとうございました。

※まあまあネタバレを含みます。



やはり曲がどれもきれい!
俳優も歌がそれぞれに上手だったので、名曲を名曲として楽しめる安心感があった。
どれも聴き馴染みがある感じがして、曲調が似ているアンパンマンのキャラソンなどが具体的に思い出された。


幕が開いてすぐ、植民地としての大連が発展した流れが、歌と台詞で分かりやすくかつシッカリと説明される。
歴史説明ソングはミュージカル界にそれなりにあれども、この『大連1931』はダンスホール「ペロケ」のショーとして成立するだけの楽しげなナンバーなので観ていて飽きない。
ただ歌詞は古いので、不勉強な若者としては「ネタが分からない」という意味で分かりにくいところもある。


台本の日本語は全体的に古い。(オリジナルの初演が1980年)
過去の上演映像を見るに、あまりに伝わりにくいところや時代に即していないところはカット又は改変しているらしい。そういうの良いと思う。
(特に「女性を押し倒して…」みたいなところをキスの話にしたところ。同意のないキスも怖いけどそういう話の展開だからな…)

あと、作品舞台の時代としての古風な言い回しも俳優が完璧に演じるので、気持ちよかった。


ペロケのダンサーがずっと舞台上に居て、その人達に見守られながら物語が進む。
ダンサーと俳優が互いに存在を認識しているらしいのも面白い。(台詞には無いけど、姿を目で追ったり、邪魔そうにしたりする。)
過去の上演にもダンサーは居るけど、ずっと舞台に居るわけじゃないので、これは今回の演出らしい。

ラサール石井演じる司会者が何役も演じていることも、ダンサーがずっと居ることも、この話が「(ペロケで)演じられている物語」だということを強調して見せている。
ラサール石井の衣裳には必ず陰陽マークがついていて、意味深だった。)

ダンサーについては、最後の最後に日暮の記憶の中だったのか、という感じがするのも良い。セットもずっとペロケだし。

このペロケがなんとなく時空を超えた世界、亡霊の世界にも見えるし、天国のようにも見える。



仕方がない〜って歌に戦争の歌が乗っかるのエグいね…!
いわゆる人物が心情として歌うタイプのリプライズではなく、それだけで独立していたと思った曲が別の場面で何度も繰り返されることで作品のテーマが明確になってくるようだった。
日常から戦争まで、「仕方がない」の空気が蔓延していく。


この曲に限らず、一曲それぞれが独立した歌謡曲のようでありショーナンバーのようなのに、それらが繰り返されながらいつの間にか繋がっていくところ、やっぱりミュージカルなんだよなあ。


終盤、主人公が歌う「僕はそこにいなかった」の歌、戦後の現代日本しか知らない人にはきっと書けない歌だ……すごい……。
そこにいたら戦ったかもしれない、そこにいたら万歳をしたかもしれない、そこにいたが何もできなかったがそこにいたから憤りを感じるんだ。


最後に照明によって日の丸が旭日旗になるの……うーわー……

終わり方がすごい、いやーな感じなのに、あの華やかで爽やかなカーテンコールよ…。

しかし、このいやーな感じ、観たかったものだ。




それぞれの考え方、立場、逆境があり、その身近な対立も描く話。
(中国人に対する考えがぶつかったときの会話の終わらせ方が「不快な気分になるだけだ」)

それでも「こうあるべし」ということは決して語らず、ただ平和に別れを告げることになってしまったことだけを描いている。

満州の独立、という視点とか。
平和な街をそっとしておけば…というのもリアル。


大連という都会で確かにあった、ペロケとペロケに関わる人達の「日常」が、戦争を前に徐々に変わっていく。
戦争の足音は恐ろしい。今だからなおさら。

また、『洪水の前』は戦闘を(そのものとしては)描かないし、軍の上層部は登場しない。
それでも、ラストに出てくる憲兵を、その異様さをもって他の登場人物とハッキリ分けて描いている。



文学や芸術が役に立つかどうかで測られるの、今聞くとコロナ的にも戦争の足音的にもきつい。

「きみは何主義者なんだ?」


親友としての二人の関係、だが、どちらとも言わないこの描き方、すごくいいし、互いに言葉にするようでしない。


『我が青春の茉莉』、メロディが頭から離れなさすぎる(笑)
僕は書く〜このなま〜えを〜


何度も上演し受け継いでいくべき作品なのに、25年も上演が無かったの恐ろしい。
日中国交正常化50周年、として上演することの意義。


茉莉役の宮田さんが抜きん出て上手くて凄かったのだが、日暮役の浅野さんは文学座の人なの!?歌うますぎでは…!?改めて文学座こわいな。


クレジット

【出演】
ラサール石井
宮田佳奈・浅野雅博(文学座)・西川大貴・藤森裕美・向谷地愛
ブッチィー・松田 周(青年座
鈴木彩子・東城由依・矢野叶梨(Wキャスト)・近藤萌音・成観 礼(Wキャスト)・神野紗瑛子・松本裕子

【演奏】
吉田さとる(Pf.)・えがわとぶを(B.)

【スタッフ】
脚本=矢代静一
脚本・作詞=藤田敏雄
演出=鵜山 仁 
音楽=いずみたく

音楽監督・編曲=吉田さとる
美術=乘峯雅寛
振付=川西清彦
宣伝写真=岩田えり
宣伝ヘアメイク=きとうせいこ
協力=矢代静一事務所、有限会社石井光三オフィス、有限会社フレンドシッププロモーション、文学座
企画・制作=株式会社オールスタッフ、ミュージカルカンパニー イッツフォーリーズ